ロンドン-ウェンブリー・アリーナ

今年10月にオーストラリアにて、旗揚げツアーを行った新団体WWA。そのコミッショナーに、WWFとWCWの両タイトルを獲得した事がある「ヒットマン」ブレット・ハートが就いていることもあり、世界中のプロレス・マスコミから注目されている。

そして、参加選手には、元WCW王者のジェフ・ジャレット、人気者バフ・バグウェル、ルチャのフベントゥ・ゲレーラ、コナン、シコシス、WWFからは元ニューエイジ・アウトローズのロード・ドッグ、ジェリーローラーの息子のグランド・マスター・セクシー、吸血戦士ギャングレル等と、味のあるメンバーが顔を揃えた。そんなWWAがアイルランド・ツアーを経て、この12月に遂にイギリスに上陸してきた。

ウェンブリー・アリーナは主にコンサート会場として使用されている所で収容人数は1万2千人ぐらい。

私自身、過去にもザ・フーやペイジ&プラントのロック・コンサートを見た事もあり、思い出深い会場であるが、プロレスの興行が行われるのは、私が97年にイギリスに来てから初めての出来事である。

今までプロレスとしての使用許可が下りなかったかどうかは、定かではないが、今回のウェンブリー進出はプロレス界にとっても、大きな意義があることだろう。早速、WWFも来年ここウェンブリー・アリーナでのイベントを開催する事になった。

いざ会場入りし、自分達の席を探す。我々のブロックはアリーナ席、そして花道の丁度、反対側という事で、入場してくる選手を真正面から撮影することができる。これはなかなか美味しいぞ、と思いながら席に付く。

しかし、ゲッ、リングが見えない!!1列前に座ってる観客の座高が高いのだ。そして、超デブな3人組だ。

マクガイヤー兄弟とモンスター・リッパーが前に座っていることを想像して頂くと、わかりやすい例かもしれないが、その3人組は両腕を前に折り込みながら、一応それぞれの座席には付いているのだ。

せっかくデジカメを買ったばかりで、ビシバシ写真を撮るぞ、と気合が入ってたのに、出鼻を見事に挫かれた。しかし、失望した我々を救ったのが、WWAの観客動員数。会場は6~7割の入りである。

特に1階席はガラガラである。幸運な事に(スマン!WWA)、我々の後ろの席はガラガラである。ということは好きな所に場所を移す事ができるのだ。ということで、我々は後ろの段が上になっているところに、移動した。その後、デブ3人衆も5つの席を利用して、落ち着きはじめた。

そして、アナウンサーのナレーションと共に、遂にWWAがそのベールを脱いだ。プロモーション・クリップが流され始める。ブレット・ハートやジェフ・ジャレットなどの最近、テレビ中継で見られない面々が次々に映し出される。会場は大歓声だ。全部のシーンがオーストラリア遠征の時のものなのだろう、流血のジェフ・ジャレットが金網の中で、ベルトを掲げている姿が印象的だった。

プロモが終わり、リング・アナウンサーとコナンが入場してくる。この二人は前半戦を実況する役割を果たすのだが、驚いた事に彼らの声は会場全体に、聞こえるようになっており、なかなか面白い試みであった。その二人が、コミッショナーのブレット・ハートを紹介し、皮ジャン、ジーンズ姿のハートが入場すると、会場の全員が立ち上がり、スタンディング・オベイションだ。

去年のWCWロンドン大会でも、マイク・パフォーマンスを行ったハートだが、ほとんど内容は一緒だった。「92年のウェンブリー・スタジアム興行(WWF)は思い出深い。負けたけど・・」「WWFのトップであるロックやオースチンは俺からピンを取ったことがない」「ヴィンス・マクマホンは大馬鹿野郎だ」などなどの発言で、会場をヒートアップさせた。

第一試合
フベントゥ・ゲレーラvs シコシス
日本でもお馴染みの2人が入場。以心伝心の兄弟だけあって、お互いの上手さが光る試合であった。フービーがロックのピープルズ・エルボーをパクるシーンも見られた。最後はフービー・ドライバーをかわしたシコシスがライガー・ボムでフービーからピンフォール勝ち。

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スコット・スタイナーが登場。スタイナーはWWF移籍の噂があったが、今回のイギリス・ツアーからWWAに仲間入りした。早速、ジェフ・ジャレットの持つWWAヘビーに挑戦させろ、とアピールを開始する。スタイナーの女性マネージャーは元WCWのナイトロ・ガールズの一人か?いかにものシリコン・ボディの持ち主であった。

第二試合
「バンパイア・ウォリアー」ギャングレル vsルナ・バション
元WWF選手は流石に人気がある。ギャングレルは入場時に、赤いドリンク(血のつもり)を飲み干すギミックが売り物なだけに、ファンは大喜びだ。実生活の奥さんであるルナと試合をするのだが、息の呼吸がぴったりだ。ルナの急所攻撃がやけに多かった(笑)。最後はギャングレルが得意技のDDTで愛妻を仕留めた。

第三試合
バフ・バグウェル vsスティービー・レイ
人気者バグウェルと巨漢レイが入場し、マイク合戦を繰り広げる。試合の方はレイのパワー・ファイトが光り、バグウェルを圧倒。凶器でバグウェルを殴り付け、カウントスリーを取ったが、レフェリーが凶器を発見。試合は続行され、油断したレイをバグウェルがDDTでフォール勝ち。

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第四試合
グランド・マスター・セクシー vsディスコ・インフェルノ
ダンスが得意な(?)二人の対決。WWFvsWCWの闘いがWWAを舞台にして、実現。ディスコ・インフェルノが「ナイト・フィーバー」のテーマ曲で入場、ジョン・トラボルタばりのダンスを披露する。こういうギミックは嫌いではない。次に、セクシーのテーマ曲が始まると、会場は大爆発。大きな歓声でWWFを解雇されたセクシーを迎え入れる。

ジェラシーの塊、インフェルノはセクシーと観客を「馬鹿」などと挑発するが、観客は「Pouf(オカマ野郎)!」と一斉に反撃。インフェルノが何かを言う度に、観客はPoufと反撃するので、インフェルノは精神的に動揺している様であった(マジで)。
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試合で面白かったのは、これまたロックのピープルズ・エルボーのパクリである、インフェルノの「ヴィレッジ・ピープルズ・エルボー」。ヴェレッジ・ピープルとは、西城秀樹の大ヒット曲である「ヤングマン(YMCA)」のオリジナルを歌っていた70年代後期のグループである。そのグループの象徴でもある工事現場ヘルメットをインフェルノが被り、ロープに飛ぶ前に「YMCA」のジェスチャーを入れ、後はピープルズ・エルボーという流れの、しょーもない技なのだが、なかなか笑わせてくれた。

最後はセクシーの得意技、ゴーグルを付けてのトップロープからのギロチン・ドロップ。WWFとWCWのトップ・エンターテイナーが魅せてくれた面白味のある試合だった。試合後はセクシーのダンス大会。解説席のコナン、レフェリー、観客から一人を交え、踊りはしばらく続くが、そんな事が気に入らないのか、スコット・スタイナーがまたもや入場。

ダンス・パーティを破壊し、セクシーを痛めつけて、リング上は収拾が付かなくなる。憤慨したスタイナーはセキュリティ(or観客)の一人に、棒状のようなもので攻撃を加える。そこで、ブレット・ハートが登場、スタイナーのメイン出場とタイトル挑戦を認めた。

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休憩後、全試合で負けたインフェルノが入場。どうやら、コナンに代わって、後半戦の解説を務めるらしい。ヘッドフォンを手にし、何かを喋る度に、会場からPouf と言われ続ける。このレスラーと観客とのインタラクティブが、今大会の盛り上がりの大きな鍵となった。

第五試合
コナン、ネイサン・ジョーンズ vsローディ、レニー
ロンドン出身という事で、大きな歓声を浴びるネイサン・ジョーンズ。デ、デカイ!軽く2メートル10はあるだろうか?上半身もビルド・アップされて、試合を期待したが、見事に期待外れだった。

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オカマコンビの対戦相手にやられっぱなし。しかし、ジョーンズは2人にチョーク・スラムを与え、そのまま2人に覆い被さり、勝利をものにした。
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第六試合
ハードコア・マッチ
ノーマン・スマイリー vsクローバー
これまた、ロンドン出身レスラー、スマイリーが父親を伴って、入場。ハードコア路線をひたすら走るスマイリー、ごみ箱やパイプなどで、クローバーとやりあうが、WCWで塩レスラーのイメージがあったクローバーはなかなかうまくなっていた。
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試合自体もクローバーが攻め続け、一つ一つの技が適確であった。調子に乗り、スマイリー・シニアにも手を出すが、試合後にお仕置きを受ける事になる。最後は一日の長があるスマイリーがクローバーを机の上にパワーボムで叩き付け、勝利。

第七試合
WWAヘビー級選手権
スリー・ウェイ・マッチ
ジェフ・ジャレット vsロード・ドッグvsスコット・スタイナー オーストラリア・ツアーで初代WWA王者となったジャレットに、人気者ドッグと悪玉スタイナーが挑戦。ジャレットと言えば、ギター攻撃。

会場でも、多くの人達がスポンジ製(?)のギターを持って、ヒールのジャレットを応援していた。王者の風格も身に付けており、入場だけでも銭の取れるレスラー、になったと言えるだろう。しかし、その入場で銭が取れる、と言えばこのレスラーの右に出る者はいないだろう。ロード・ドッグだ。WWFでの決め台詞をWWAでも活用し、観客は大喜びだ。

そんな人気者が気に入らないのが、ジャレットとスタイナー。2人掛かりで攻撃を加えるが、ロード・ドッグがいったん距離を置くと、2人は仲間割れ。徐々にスリー・ウェイ・マッチそのものと化していく。スタイナーが得意技スタイナー・クライナーをロード・ドッグに仕掛けると、休憩前にスタイナーにやられたグランド・マスター・セクシーが逆襲しに登場。スタイナーの女マネージャーを加え、場外戦へと発展していく。

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リング内では、ジャレットとロード・ドッグが攻防を続けるが、最後は目玉のジャレット・ギター攻撃。見事にロード・ドッグの脳天にヒットし、カウント3を奪った。しかし、ジャレットをいたぶりを止めようとせず、遂に入場口からブレット・ハートが登場。ジャレットを倒し、なんとシャープシューターを仕掛ける。WWAのクライマックスはこういうオチが待っていた。一応、ハッピーエンドで観客は満足そうだった。
今大会を総括してみると、エンターテイメントとしては、いろいろな要素が詰まっており、合格点を与える事が出来る。

ブレット・ハートやスコット・スタイナーという重鎮の存在、エンタメ部隊筆頭格のロード・ドッグ、バフ・バグウェルとブライアン・クリストファー、ハードコアのスマイリー、ルチャのフービーの個性がそれぞれの試合を彩っていた。

最高に面白かったのが、実況を通しての選手と観客のインタラクティブ。前半戦のコナンはジョークを連発し、観客を笑いの渦に巻き込んでいた。

一方、後半戦のディスコ・インフェルノは口汚い事ばかり言ってて観客の反感を買い、Poufと言われ続けた。しかし、そんな場外のやりとりをものともせず、試合に集中していた選手達もまた、たいしたものである。

もちろん、不安要素もいくつかある。観客動員数が乏しい。全体的にレスリングの質が高くない。そして、一番危機感を感じるのが、ベビーのトップ・レスラーのロード・ドッグが役不足であること。

入場が面白くても、肝心の試合の方が締まらなければ、興行としても成功しない。やはり、ブレット・ハートの復帰が今後のWWA存続の鍵となるだろう。

来年五月にまたロンドンに戻ってくる、ということだが、それまでに団体として続いているかどうか・・。頑張れ、WWA!

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